フィリピンは現在、人口が急激に増加している国として知られています。
ジェトロの報告によると、フィリピンでは2050年頃まで人口増加が進み、若い働き手が増え、経済が活性化されていく「人口ボーナス」の恩恵を受けるといわれています(参照)。
しかしながら同時に、経済的に余裕のない貧困家庭も増えています。その1つの要因が10代での妊娠です。
本記事では、フィリピンで現在も大きな問題になっている「10代の妊娠」による闇について紹介します。
フィリピンにおける10代の妊娠の現状
フィリピンは、10代の妊娠が非常に多い国です。どれぐらい多いかといえば、過去5年間で10代の妊娠が約100万件あったということです。これはつまり、10代による出産が、1日あたり500件行われているということです(参照)。別の報告によれば、フィリピン全体では、10代の妊娠率が8.6%と報告されています(参照)。
ここには、結婚や出産が早い国だから、という理由だけでは済まされない問題があります。ちなみにフィリピンでは、正式に結婚ができるのは男女ともに18歳だと規定されています。また、18歳未満との性行為は法律で禁止されており、厳罰が課されることになっています。しかし、それにも関わらず、多くの若い女性が妊娠し、場合によっては育児に苦しんでいる現状があるのです。
10代の妊娠のうちの1%は、10~14歳による出産です。フィリピンでは1日当たり5件程度、10~14歳の少女による出産が行われています。これは、データ収集ができたケースのデータですので、実際にはこの数値よりも高くなるでしょう。
具体的な数は報告されていませんが、この中には、性的虐待によって妊娠した女性の数も含まれています。驚くことに、10歳の少女が、義理の父との性行為で妊娠したという報告もあるのです(これがどのような経緯だったのかは明らかにされていません)。また、多くの10代の女性は、それらの事実を隠したがるといいます。その結果、本当の親は誰であったのかがわからない状態に陥るといいます。
ちなみに、私の住むダバオ市は、フィリピンで最も安全な都市、といわれていますが、フィリピン国内で10代の妊娠率が最も高い都市ともいわれています(参照)。2018年のフィリピン国内の10代妊娠率は8.6%ですが、ダバオ市の10代妊娠率は12~13%です。そして残念なことに、それらの妊娠・出産の多くが、「意図しない妊娠」「予定外の妊娠」なのです。
ダバオ市では、これらの問題を解決するために、若者に対する性教育を進めたり、10代で妊娠した女性に対するサポートを行っていますが、2019年には10代の妊娠率が13~14%とさらに増加しているのです。
フィリピンにおける性行為事情
フィリピンでは、上記で紹介したように、多くの10代の女性が望まない妊娠を行っています。では、フィリピンにおける性行為事情はどうなっているのでしょうか。
まず、フィリピンでは、18歳未満の性行為は、法律上禁止されています。これは、両者の同意があったとしても禁止されており、もし違反した場合には無期懲役や終身刑などの思い刑罰が処せられます。また、フィリピンはキリスト教徒が多いのですが、キリスト教では、結婚前の性行為は禁止されています。
しかし現状として、10代の妊娠がとても多いわけです。つまり、18歳未満の女性であっても、性行為を行い、妊娠しているのが現状です。以下では、考えられるケースを紹介します。
若い恋人同士による性行為
10代の男女がお互いを愛し合い、セックスをするという形です。フィリピンでは、交通網が整っておらず、地方から町の中心街に行くためには大きな労力を費やします。そのため、自宅で一緒に過ごす時間も増えますが、スマホのデータ通信も割高なため、無料で快楽を得られる性行為を行うカップルが多いのです。コンドームも販売されていますが、実店舗で直接購入する必要があるのに加え、コスト感も割高です(日本製のものよりも安いですが、フィリピン人の経済事情からすると割高に感じるとのこと)。また、フィリピン人は快楽が得られる性行為を好む人が多いようで、より楽しむために避妊具を使わずに性行為をします。その結果、予期せぬ妊娠につながります。
この10代男女による性行為は、家庭が貧しかったり、教育が受けられなかった人々が行うことが多いようです。つまり、家庭が貧しい中で妊娠し、さらに貧しい生活を強いられるという負の連鎖があるのです。
性的虐待による性行為
非常に残念なのが、フィリピン国内で非常に多く発生している性的虐待による性行為です。フィリピンでは、親がいなかったり、経済的に貧しかったりなどの理由で、生活を支えてくれる義父と生活するケースが多々あります。そして、義父の中には、生活を支援している見返りに、性的な行為を要求する人もいるというのです。
お金目当てでの性行為
また、お金目当てでの性行為もまん延しています。つまり、1夜を共に過ごすから、お金をください、ということです。フィリピンでは、他国と比べて収入が低く、大きなお金を得るためには、自分の体を売るというのが近道です。そのため、見知らぬ客と性行為をすることになりますが、見知らぬ相手が避妊を行うかどうかは相手次第ですし、フィリピン人女性の中には性行為自体が好きという人もいます。複数の相手と避妊をせずに性行為をした結果、父親が誰かわからない、という状態で子どもが生まれてくるのです。
フィリピンでは、10代の妊娠の何が問題なのか?
フィリピンにおいて、10代の妊娠には多くの問題が潜んでいます。そのいくつかを紹介します。(こちらの記事を参考にしています)
十分な教育を受けていない母親が多くなる
10代前半は、本来であれば教育に力を注ぐ年齢です。しかし、妊娠してしまえば、学校に行くのが不可能になり、学校をやめることになります。その結果、十分な教養が身についていない状態で母親となるのです。最近は日本においては、大学に行くかどうかは人生の成功にそれほど大きな影響はない、といわれることもありますが、フィリピンでは、高校、大学での学びが人生に大きく直結します。特に、高校、大学と進むことにより、公用語の1つである英語の力が伸び、国際的な仕事にも就けるようになります。その一方、母語だけでは、給料の低い仕事にしかつけず、十分なお金を稼ぐことができず、経済的な貧困のもとでの生活を余儀なくされるのです。
自分の人生が歩めなくなる
それぞれの子どもには、それぞれの人生を歩む権利があります。しかしながら、妊娠することで、自分の人生を若くして子どものためにささげることになります。幼少のころに持っていた夢を諦め、子育てのみに尽力せざるを得なくなるのです。
貧困家庭が増え、場合によってはストリートチルドレンへ
母親が十分な教育を受けていない場合、簡単な労働であっても雇ってもらえません。というのも、フィリピンもIT化が進んできて、十分な教育を受けた人は外資系の企業でたくさんのお金を稼ぎ、普通程度に教育を受けてきた人たちが地元の企業を支えます。つまり、ほとんどの企業は、最低でも普通程度の教育を受けてきた従業員で枠を埋められるため、教育が十分でない人を雇用する必要がないのです。その結果、働ける場所がなくなり、子どもと一緒にお金を恵んでもらう「物乞い」になるのです。
フィリピンでは、困っている人を助ける、というのが正しいとされるため、物乞いであっても、生活に困らない程度のお金を稼ぐことはできます。しかし、将来のために必要なスキルは身につかないため、そこから人生を変えるのは、非常に難しいのです。
フィリピンで10代の妊娠を防ぐために大切なこと
上記のような現状がある中で、10代の妊娠を防ぐためには何が大切なのでしょうか。
個人的には、やはり、早期の教育が大切かと思います。性教育を学校教育のカリキュラムの中にきちんと位置付け、指導していく必要があると思います。フィリピンでは、性教育と宗教が非常に大きな関係を持っているため、政府があまり口を出せない部分でもあるのですが、今後のフィリピンの未来のためには、性教育を教育に落とし込むことは、最低限必要だと思います。
残念ながら、コンドームの無償配布や値下げ程度では、なんともできない現状がフィリピンにはあるのです。
終わりに
今回は、フィリピンにおける10代の妊娠について紹介しました。現在、いくつかの団体がこの流れを何とかしようと動き出していますが、大きな成果にはつながっていないのが現状です。
しかし、フィリピンにおける10代の妊娠は、非常に大きな問題です。中には、性的虐待などにより妊娠したにも関わらず、中絶の禁止により、子どもを産まなければならないこともあるのです。
10代の妊娠は、国全体のあり方とも関係する大きな問題です。ぜひ今後、この問題に取り組む多くの人々が現れることを切に願います。
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